
「せっかく採用しても、1~2年で辞めてしまう」「採用しては育て、また採用することを繰り返している」。こうした状態が続くと、採用する人の問題なのか、給与や待遇の問題なのか、原因が分からなくなることがあります。
人材が定着しない原因は、退職した本人だけにあるとは限りません。採用時の認識のズレ、入社後の受け入れ、上司との関わり、評価・育成、働く環境など、複数の要因が関係していることがあります。
この記事では、採用から定着までの流れに沿って自社の状況を確認し、どこから改善するかを整理する方法を解説します。
人材が定着しないと、1人の早期離職で640万円の損失になるケースも
人材が定着しないことで発生する負担は、求人広告費や人材紹介手数料などの採用費だけではありません。採用にかかわった社員の工数、入社後の給与や教育、退職時の引き継ぎ、再採用など、さまざまな負担が発生します。
エン株式会社の『「早期離職」に関する実態調査』では、年収600万円程度の人材が入社6か月で早期離職した場合、企業側の損失額を640万円と試算しています。
これは一定条件に基づく試算であり、すべての企業で1名の離職につき640万円の損失が発生するという意味ではありませんが、重要なのは、早期離職による負担を「採用費が無駄になった」だけで捉えないことです。

抜粋:エン株式会社_「早期離職」に関する実態調査_4:入社から半年で早期離職が発生した場合、企業の損失額は「640万円」。
自社でも、早期離職によってどのような負担が発生しているかを確認してみましょう。
| 負担項目 | 自社で確認する内容 |
|---|---|
| 採用 | 求人広告費、人材紹介手数料、採用担当者の工数 |
| 教育 | 研修、OJT、教育担当者の工数 |
| 退職対応 | 面談、引き継ぎ、管理職の対応 |
| 欠員 | 残った社員の業務負担、残業、外注 |
| 再採用 | 再募集から採用までの費用・工数 |
自社で実際に発生している費用と時間を確認することが、早期離職による負担を把握する第一歩です。
人材が定着しない原因は「採用から定着まで」の流れで確認する
退職者が出たときに、退職者本人の事情や特定の制度の有無だけを見て終わらせると、同じ問題が別の社員で繰り返されることがあります。採用前、入社直後、日常のマネジメント、評価・育成、働く環境という一連の流れの中で、どこに認識のズレや不足があるかを確認することが、原因の切り分けにつながります。

以下の5つの工程では、それぞれ「確認したい事実」と「改善の方向」をセットで整理します。
採用前|仕事内容や期待役割に認識のズレがある
確認したい事実
- 求人票や面接で、仕事の良い面だけを伝えていないか
- 仕事内容の説明が抽象的になっていないか
- 入社後に期待する役割が、応募者に具体的に伝わっているか
- 採用基準や面接で確認する項目が、担当者や面接ごとにばらついていないか
早期離職の背景には、入社前後の情報ギャップもあります。エン株式会社の調査では、早期離職の理由として「入社前に聞いていた情報と違った」が挙げられており、事前にネガティブな情報も聞けていれば早期離職をしなかったと回答した人も44%いました。

抜粋:エン株式会社_「早期離職」に関する実態調査_【図6】早期離職を経験したことがある方に伺います。どんな条件・制度、事前情報があれば早期離職しなかったと思いますか?
改善の方向
仕事の実態と期待役割をできるだけ具体的に伝え、良い面だけでなく実際の業務内容や働き方も伝えることで、入社後の認識のズレを減らします。求人票で何をどのように伝えるかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
採用基準と面接で確認する項目を事前にそろえておくことも欠かせません。面接時の具体的な確認ポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
入社直後|受け入れ体制と役割説明が不足している
確認したい事実
- 入社直後から現場任せになっていないか
- 分からないことを聞ける相談先が、本人に伝わっているか
- 入社時に説明した役割を、改めて確認する機会があるか
- 初日・初週・1か月の節目で、何を確認するかが決まっているか
改善の方向
節目ごとに確認する内容を事前に決めておくと、受け入れの抜け漏れを把握しやすくなります。
| 節目 | 確認したい内容 |
|---|---|
| 初日 | 業務に必要な情報や環境が整っているか、相談先が本人に伝わっているか |
| 初週 | 任せた業務に無理がないか、疑問点を聞ける機会があったか |
| 1か月 | 当初説明した役割と実際の業務にズレがないか、困りごとが放置されていないか |
日常マネジメント|相談しにくく、問題を把握できていない
確認したい事実
- 上司と部下の間で、日常的なコミュニケーションが取れているか
- 職場の人間関係について、困りごとを把握する機会があるか
- 業務上の不満や違和感を、本人が言い出しやすい状況になっているか
改善の方向
定期的な面談や1on1など、社員が困りごとを相談できる機会を設けます。特別な制度を新設することが難しい場合は、日常的に仕事の状況や困りごとを確認する機会をつくることから始めます。
評価・育成|何を評価され、どう成長できるか分からない
確認したい事実
- 評価の基準が曖昧なまま運用されていないか
- 何を頑張れば評価されるかを、社員に説明できるか
- 成長の段階やキャリアの道筋が、社員から見えているか
- 育成が現場の担当者任せになっていないか
改善の方向
期待する行動や成果、評価基準、任せる仕事と成長段階、育成方針を具体化し、社員と共有します。社員が「何を求められているのか」「次に何ができるようになればよいのか」を理解できる状態を目指します。育成の進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
社員が育たない原因や育成の仕組みについて詳しく知りたい方はこちら
働く環境|業務量・働き方・待遇への不満が蓄積している
確認したい事実
- 業務量が特定の社員へ偏っていないか
- 労働時間や休日の実態が、本人の負担になっていないか
- 給与・待遇について、本人がどう感じているかを把握できているか
- 柔軟な働き方や職場環境について、不満や要望が上がっていないか
改善の方向
業務量や労働時間、待遇など、社員が実際に負担や不満を感じている項目を確認し、自社で変更できるものから見直します。給与や待遇だけを切り離さず、採用時の認識、日常のマネジメント、評価・育成などもあわせて確認します。給与制度や労務上の個別判断が必要な場合は、社会保険労務士などの専門家へ確認しましょう。
まず退職理由と在籍社員の状態を事実で確認する
原因を絞るには、退職した社員の退職理由だけでなく、現在働いている社員の状態も確認する必要があります。
退職者だけでなく、在籍社員の困りごとも確認する
退職者の退職理由だけを根拠に原因を判断すると、すでに在籍している社員に表れている困りごとや不満、変化を見落とすことがあります。退職者が出て初めて問題に気づく状態を避けるため、在籍している社員の状態を確認する機会と、その内容を記録しておく仕組みを持つことが、事実の把握につながります。
退職理由として聞いた言葉だけで原因を決めつけない
退職時に「給与への不満」と聞いたとしても、それだけで原因を特定できるとは限りません。評価への納得感、業務量、上司との関係、今後の成長など、複数の要因が関係していることもあります。
また、在籍中に「以前より相談が減った」「仕事への反応が変わった」といった変化があったとしても、それ自体を退職の兆候と決めつけることはできません。変化を退職予測に使うのではなく、本人の困りごとや背景を確認するきっかけとして捉えます。
中小企業が改善の優先順位を決める3つの手順
原因の候補が複数見えてきた段階で、どの課題から着手するかを決める手順を整理します。
STEP1|退職理由と現場の声から原因を絞る
退職者の退職理由だけで判断せず、在籍社員から聞いた声や日常のやり取りの記録など、複数の情報を照らし合わせて原因の候補を絞ります。
STEP2|影響度と改善可能性から一つ選ぶ
原因の候補が複数ある場合、「影響が大きいか」と「自社で改善できるか」の2つの軸で優先順位を検討します。ここでいう改善可能性は、「自社で変更できるか」「必要な時間や費用が現実的か」で考えます。

複数の制度や取り組みを一度に変えるのではなく、まずは影響度が高く、自社で改善しやすい課題から着手します。
STEP3|期限と確認方法を決めて改善する
選んだ課題について、担当者、期限、実施する内容、確認する方法を決めます。実施後は決めておいた方法で状況を確認し、その結果をもとに次の改善を判断します。
人材定着の状況を確認するチェックリスト
人材が定着しない原因は会社によって異なります。ここまでの内容をもとに、まずは自社で気になる項目がないか確認してみましょう。

まとめ|定着しない原因を工程別に整理し、一つずつ改善する
人材が定着しない問題は、退職者本人だけの事情や単一の制度の不足として片づけず、採用前から入社直後、日常マネジメント、評価・育成、働く環境までを一連の流れで確認することが出発点になります。退職理由と在籍社員の状態を事実で確認したうえで、影響度と改善可能性の2軸から優先課題を一つ選び、期限と確認方法を決めて一つずつ改善していきます。
人材・組織の課題を整理したい方へ
自社のどこに原因があるか、何から着手すべきかを社内だけで整理しにくい場合は、外部の視点を交えて課題を整理する選択肢もあります。


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